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“Path to Innovation”は、イノベーション・コンサルティング会社i.labが運営するWEBジャーナルです。

イノベーションに関連した、アイデア創出手法やマネジメント方法、さらに、おすすめの論文や書籍について紹介します。また、注目すべき先端技術や社会事象などについても、イノベーションが発生し得る「機会」としての視点から解説していきます。

Methods

「調査のための調査」
に陥っていないか

最近では、「人間中心イノベーション」の概念の中でも、「デザイン・シンキング(=デザイン思考)」と呼ばれる方法論が、製品開発のみならず事業開発の文脈でも注目を集めています。「デザイン・シンキング(=デザイン思考)」とは、アイデアを創出する方法論の一つです。ユーザーに対し、参与観察を行う事で得られるユーザー理解を起点としています。技術開発や技術調査ではなく、人側から考え始めるという点で、人間中心の調査手法と言えます。今回は、「人間中心イノベーションの調査方法」、特に生活者に焦点を当てた調査について紹介します。

Hayato Shin / 2015.5.01

Photo by Bethany Legg

「デザイン・シンキング」をビジネス系人材、
そしてマネージャー層が使いこなす時代に


「デザイン・シンキング」は、元々はデザイン系の専門性を持つ人材の中で知られた製品開発の方法論でしたが、最近ではビジネス系の人材にもよく知られるようになっています。例えば、日経ビジネスと日経デザインが主催で「事例で学ぶ『デザイン・シンキング』セミナー」というタイトルのセミナーが2014年度だけで4回も開催され、実務者のみならず大企業の役員・部長などのマネージャー層も多く参加されているようです。i.labスタッフも講演者として登壇致しました。

生活者のありのままのミクロ情報から社会全体に対する洞察を得る


人間中心の調査の種類には、主に2つあります。1つは、「アイデアの着想をユーザーから直接得るもの」と、もう1つは「社会に対する洞察を得るもの」です。i.labでは特に後者のアプローチに焦点を当てています。i.labの顧客は、大きな企業であることが多いため、必然的に新規事業アイデアに期待されている将来の市場規模も大きくなります。そのため、ミクロなフィールド調査の結果から、出来るだけ大きな未来社会の変化の兆しや顕在化していない成長市場の発見へと思考を進めるようにしています。具体的には、プロジェクトのテーマごとに選定した生活者へのインタビューやフィールド観察、公開情報調査を実施して、個別の情報から社会全体の変化を構造的に整理したり、未来社会の中で顕在化してくる社会課題を特定したりしていきます。そうやって構造的な整理の結果に特定できた機会領域の中で、アイデアを出しています。

2-pic-w660

社会のこれからについて、発見的に理解していく


この調査の最初の目的は、自分も他者も明確には理解していない社会状況を発見的に理解することにあります。例えば、◯◯なことについて(◯◯には自由に言葉が入ります)の理解が、自分にとっても他者にとっても明確であればそれは常識と言えます。一方で自分も他者も明確には理解できていない領域の場合、それ自体が新しく、議論も巻き起こりやすいため、そこを立脚点として発想されるアイデアはイノベーティブなものになりやすいと考えます。

3-pic-w660

創造的思考に活用するための調査であることを忘れない


調査結果は示唆と事実情報、ビジュアルイメージから成るカード形式で整理します。構造(論理的)と混沌(直感的)の中間領域の思考状態は、創造性の観点から理想的です。そのため、カード内にキーワードとビジュアルも織り交ぜることでアイデア発想する際に理想的な思考状態を意図的に創り出しています。

この調査の結果をまとめる際に大切なのは、調査報告書をつくって満足するような「調査のための調査」で終わらせずに、後で他の人のアイデア創出に役立つような「創造的思考のための調査」と考えることです。前述のようなビジュアルとキーワードで表現されたカードでレポートを作成するのもそのためです。

i.labでは、このブログでは紹介しきれない方法論や実践事例、「イノベーション」にまつわる最新情報を、PDF付録付きの「ilab News Letter」で無料配信しています。購読を希望される方は、下記URLからお申し込み下さい。Vol. 1の試し読みも出来ます。また、購読申し込み後には、アーカイブも閲覧可能なURL情報をお送りします。
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Author
新 隼人

Hayato Shin
i.lab Business Designer

東京大学i.school プログラムマネジャー。電気通信大学大学院知能機械工学専攻修了(学長賞副総代)。大学院時代には、国費奨学生として派遣国イタリアの現地企業にて産業用自律移動ロボットの研究開発に携わる。現在は、i.labでのコンサルティング活動に加え、東京大学i.schoolにて、海外大学や企業とのコラボレーションを主な担当として教育活動にも注力している。

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