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“Path to Innovation”は、イノベーション・コンサルティング会社i.labが運営するWEBジャーナルです。

イノベーションに関連した、アイデア創出手法やマネジメント方法、さらに、おすすめの論文や書籍について紹介します。また、注目すべき先端技術や社会事象などについても、イノベーションが発生し得る「機会」としての視点から解説していきます。

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未来の市場
「ブルーオーシャン」
の探し方

前回、5月15日のエントリー「結局、デザイン・シンキングとは何か」では、アイデア発想のプロセスには、4つのアプローチがあることを紹介しました。今回はそのアプローチの中から、特に「人間起点アプローチ」に着目し、未来の市場「ブルーオーシャン」(=未だ競合の少ない有望な事業機会)を探索する方法について紹介します。

Hayato Shin / 2015.5.28

Photo by manu schwendener

「人間起点アプローチ」にも2種類ある


「デザイン・シンキング(=デザイン思考)」も含まれる「人間起点アプローチ」には、さらに2種類のアプローチがあります。1つは「アイデアの着想を直接得るアプローチ(以下①という)」です。もう1つは「社会に対する洞察を得るアプローチ(以下②という)」です。それらのアプローチについて、もう少し具体的に紹介していきます。

 

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「アイデアの着想を直接得るアプローチ」


i.labでは、「デザイン・シンキング(=デザイン思考)」の狭義の意味は、人間起点アプローチの①に該当すると考えています。具体的には、調査対象のユーザーに深く共感し、ニーズへの深い理解を発想の起点とするところに、「デザイン・シンキング」の本質があると解釈しています。また、定量的なデータよりも、定性的な調査を通じた気付きに重きを置く点も特徴です。例えば、子供が走る様子や、転ぶ様子を観察して生まれた左右非対称のソールを持つ運動靴の「俊足」シリーズやIDEOによる子供の歯磨きの様子を観察して生まれたグリップの大きな歯ブラシは、このアプローチに属しそうです。
この方法論は、既存製品の改善を目的とする際に広く有効だと考えられます。しかし、どちらかと言うとコンセプトそのものを刷新するような新しい製品・サービス・事業の開発に活用しようとする際には、利用者の高い習熟度が求められる側面もあります。その点では、デザインの専門性やアイデア創出の経験を持つ社員が少ない大企業の中で使いこなすには難しい方法論であるとも言えます。では、大企業において新しい製品・サービス・事業の開発を行う際に現実的に使える方法論やプロセスはないのでしょうか。

「社会に対する洞察を得る」アプローチ」


大企業で「人間起点アプローチ」を利用する際のポイントは、人間側の定性的な調査を通じた気づきを直接的かつ個別に活用するだけではなく、それらを基に、社会全体に対する大きな洞察につなげていくことです。その大きな洞察を得る過程は、未来の市場「ブルーオーシャン」(=未だ競合の少ない有望な事業機会)を探索する過程と言い換えることもできます。そのためには、テーマごとに選定した生活者へのインタビューやフィールド観察から得た小さな気づきを、一度マクロな視点でその意味合いを解釈し直す必要があります。人間起点アプローチの②はそれに該当し、社会全体の変化の萌芽を発見したり、アイデアへの洞察を得たりするアプローチです。このアプローチに属しそうなものとしては、例えば、博報堂イノベーションラボによる、公開されているニュース記事等をもとにして不確実性の高い未来社会をイメージアップする「未来洞察」の手法があります。またエクストリームユーザーへのインタビュー調査から社会通念・事象のモデリングを行う「ビジネスエスノグラフィー」の手法などもあります。
では実際のプロジェクトでこのアプローチを実施しようとした場合、具体的にはどのようなステップを通じて社会に対する洞察を得るのでしょうか。

i.labで実施しているアイデア創出の4つのステップ


i.labでは、②のアプローチをとり、以下の4つのステップを通じて社会に対する洞察を得た後、アイデアを創出します。

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A.多種多様な事実情報の収集


例えば未来の暮らしについて検討するプロジェクトであれば、未来の社会課題や事業機会、アイデアの方向性について洞察を得る情報源が必要です。そのため現代社会の中で特定の整理軸上において極端な位置に存在する生活者(エクストリームユーザー)や先進事例に関するフィールド調査を実施します。また、webや雑誌、新聞などの公開情報から、現在のメインストリームのトレンドとは異なる未来への兆しを示す事象を収集したりもします。ここでは、定性的な調査を先行させ、調査を通じて「気付き」を得ることを優先します。

B.事実情報のグルーピングと抽象化


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Aで収集された多種多様な事実情報をグルーピング化することで、調査目的に対する気付きや示唆を導き出します。i.labでは、事実情報を大きく2種類に分けて整理しています。1つはフィールド観察やインタビューから得られる「対象固有の事実(行動や価値観)」です。もう1つは統計分析や世の中の事例/トピックといった「社会一般的な事実(定量・定性情報)」です。世の中的には、どちらか一方の事実情報のみで議論を進めることが多いようですが、i.labでは、その両方の事実情報を収集・整理することで、斬新かつ蓋然性が高い示唆を抽出します。この段階では、利用するのは定性的な情報のみならず、定量的な情報によってもその示唆が論理的にサポートされているのかを補完的に適宜確認することも大切です。なお、示唆の内容や表現については、Bの段階と後述するCの段階とを行ったり来たりしながら考えます。

C.状況の構造的理解


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紡ぎだされた示唆をどのように構造的に理解していくのでしょうか?以前、i.labプロジェクトにおいて、未来の暮らしが今後どのように変化するのかを検討する機会がありました。一般的に未来について考える際、社会はこう変わる、というように変化ばかりに着目しがちです。しかし、先進事例や人に関するフィールド調査を通じて分かった事は、変化だけではなく、実は変わらない・変えたくない価値観や行動・状態があるということです。未来の暮らしを考える際の構造的な理解としては、「不変」と「変化」の要素に着目することが重要です。

D.事業機会の探索


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先進事例や人へのフィールド調査から得られた示唆を構造的に理解した後は、そこから未来の事業機会(=ブルーオーシャン市場)の探索と設定をします。i.labのプロジェクトでは、例えば上図のように「変化」と「不変」の要素を抽象化したタイトル5つ程度をマトリックスの表頭と表側にそれぞれ置き、それらの掛け合わせから見えてくる社会シーンや社会課題をイメージアップします。例えば未来の暮らしの事例で言えば、以下のような事業機会が見えてきます。

例)上図の事業機会1


変化によって不変の価値・行動にさらに脚光があたるような事業機会の探索。(例えば、不変の要素として「新鮮な食品を食べたい」というものがあり、変化の要素として「都市部の高齢者増加」があったとすると、事業機会として「生鮮品購入行動を通じた地域コミュニティの形成」が見出される)

例)上図の事業機会2


変化によって不変の価値・行動を毀損するような事業機会の探索。(例えば、不変の要素として「自分のピークを維持していたい」というものがあり、変化の要素として「(超高齢社会における平均として)人々の身体機能の衰え」があったとすると、事業機会として「個人に合った現状維持のための健康・学習活動が流行」が見出される)

こうして見えてきた事業機会と自社技術・アナロジー事例等を掛け合わせることにより、アイデア創出を行います。

i.labでは、このブログでは紹介しきれない方法論や実践事例、「イノベーション」にまつわる最新情報を、PDF付録付きの「ilab News Letter」で無料配信しています。購読を希望される方は、Vol.1の試し読みも出来る下記URLからお申し込み下さい。また、購読申し込み後には、アーカイブも閲覧可能なURL情報をお送りします。
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Author
新 隼人

Hayato Shin
i.lab Business Designer

東京大学i.school プログラムマネジャー。電気通信大学大学院知能機械工学専攻修了(学長賞副総代)。大学院時代には、国費奨学生として派遣国イタリアの現地企業にて産業用自律移動ロボットの研究開発に携わる。現在は、i.labでのコンサルティング活動に加え、東京大学i.schoolにて、海外大学や企業とのコラボレーションを主な担当として教育活動にも注力している。

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