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“Path to Innovation”は、イノベーション・コンサルティング会社i.labが運営するWEBジャーナルです。

イノベーションに関連した、アイデア創出手法やマネジメント方法、さらに、おすすめの論文や書籍について紹介します。また、注目すべき先端技術や社会事象などについても、イノベーションが発生し得る「機会」としての視点から解説していきます。

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大企業×イノベーション

今回は“大企業×イノベーション”と題し、i.labではなぜ日本の大企業のイノベーション創出に注力しているのか、という点についてご紹介したいと思います。

Yukinobu Yokota / 2014.11.20

Photo by Vladimir Kudinov

イノベーション創出は、社会を変えること


i.labは、イノベーション研究機関でも、イノベーション教育機関でもなく、イノベーション創出機関です。だから私たちが仕事をするかどうかを考える際には、常に、それが社会を変えるイノベーションを生み出すことにつながるかどうか、を中心に判断します。つまり、i.labの事例として雑誌などにも取り上げられる三菱重工業グループにも、他の大企業のクライアントにも、八王子市のものづくり企業にも、新興国の発展途中の企業にも、社会を変える大きな可能性を本当に感じているということでもあるのです。

では、なぜ日本の大企業の方々と中心に仕事をしているのか。それは、私たちがそこにとりわけ大きなイノベーションの可能性を感じているからです。「大企業にイノベーションの可能性」というと、世間ではたいてい反対のことが言われがちですが、私たちはそう考えます。
まずは、イノベーションに繋がる「有望なアイデア」の見分け方を考えていきましょう。

「有望なアイデア」を見分ける二つの軸、「新規性」と「社会的インパクト」


イノベーションにつながりそうな有望なアイデアか否かは、これまで存在してきた別アイデアとの比較でわかる「新規性」、そして、未来に想定される「社会的インパクト」の二つの軸で評価した場合に、どちらの観点で見ても高く評価されるものであると私たちは考えます。そうしたアイデアが、長期的にみると、人々の行動や価値観を不可逆的に大きく変えうる、イノベーションに繋がりやすいアイデアと言えるのではないかという仮説を持っています。確かに、現時点で、その二つの観点で低い評価となっても、結果としてイノベーションであったと未来に評価されるアイデアはあり得るでしょう。しかしながら、現時点でイノベーションに繋がりやすいアイデアを効率的に見分けるためには、上記の観点による評価は有効だと考えています。

大企業ゆえに、新規性と社会的インパクトのあるアイデアを「届けやすい」


大企業にイノベーションの大きな可能性を感じるという話について、先ほどの二つの観点を踏まえながら紹介したいと思います。

確かに、アイデアの質を評価する新規性や社会的インパクトに関しては、大部分の大企業が組織として持つ保守的な考え方や、前例のない創造的な発想や行動を支援しづらい効率重視の経営システムにおいては、発揮しづらい部分かもしれません。その点ではいわゆるベンチャー企業などの方が優位性があるかもしれません。しかしながら、何らかの方法論や支援を活用しながら、仮に十分な新規性や社会的インパクトを持つアイデアが生み出されたとします。そのイノベーション候補のアイデアが実現して、社会的なインパクトを実際に生み出しやすいのはどういう組織でしょうか。やはり、アイデアを生活者に実際に届けるための仕組みである、流通的な面に強みがある強い大企業にはその点で優位性があると言えるでしょう。

特に「新規性」の高いアイデアは、生活者や企業にとって初めて取り扱うものであったりするため、ある部分では意図的に慣れ親しんだ仕組みや接し方を利用して、そのアイデアを試してもらう必要があります。その点で、例えば家電メーカーだとすると、既存製品の流通網や店舗での販売棚を持っていることは、大きな強みとなりえます。また、BtoBの事業を行う企業ですと、既存顧客がいて、通常の製品と一緒に新たなアイデアを試しに持ち込めるというのは、大変な強みです。以上を言い換えると、新規性の高いアイデアであるからこそ、それを実現する流通の仕組みや、生活者に触れさせる導線は、事業者側にとっても生活者側にとっても、既知のもので敷居が低いものである方がベターであるということです。ベンチャー企業ですと、新規性のあるアイデアを、新規流通網で届けなければなりませんが、大企業ですと、新規流通網を一から構築する必要性がないわけです。そこには大きなアドバンテージがあります。

以上、大企業とイノベーションの関係について私たちの考えをお伝えしてきました。実はもうひとつ、私たちが大企業とお仕事をさせていただいている理由が大企業と起業という文脈であるのですが、それについては、また別のエントリーでご紹介したいと思います。

ということで、次回のエントリーは「大企業vs起業」です。どうぞお楽しみに。
Author
横田 幸信

Yukinobu Yokota
i.lab Managing Director

i.schoolディレクター。早稲田大学ビジネススクール(WBS)非常勤講師。九州大学理学部物理学科卒業、九州大学大学院理学府凝縮系科学専攻修士課程修了、東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程中途退学。修士課程修了後は、野村総合研究所にて経営コンサルティング業務に携わる。その後、イノベーション教育の先駆者である東大発イノベーション教育プログラムi.school(旧名:東京大学i.school)では、2013年度よりディレクターとして活動全体のマネジメントを行っている。イノベーション創出のためのプロセス設計とマネジメント方法を専門として、コンサルティング活動と実践的研究・教育活動を行っている。近著に「INNOVATION PATH」(日経BP社)がある。

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シンガポールの「無人スーパー」、habitat by honestbeeに見る小売店舗の未来

Tomohiko Terada
2019.5.15

i.lab シニア・マネージャーの寺田です。先日、出張でシンガポールに行く機会がありました。シンガポールに行くのは2年ぶりでしたが、行くたびに新しい商品やサービスが出てきており、街中を散策していて楽しいですね。今回は日本でも買い物代行サービスを展開しているhonestbee社が2018年10月にシンガポールにオープンしたhabitat by honestbee(以下habitat)という「無人スーパー」を体験してきました。

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日本文化に根ざした
新しいコンセプトこそが、
日本発イノベーションの
種になる

Yukinobu Yokota
2014.8.25

みなさん、イノベーションと聞いて思い出すのは何でしょうか。 おそらく少なくない方々は、企業で言うとGoogleやApple、また、それに関わる製品やサービスなど思い浮かべるのではないでしょうか。日本発のものとしては、かつてSonyが生み出した音楽を持ち歩くというコンセプトの製品「ウォークマン」は、世界に衝撃を与え、確かにイノベーションの必要条件となる人々の価値観や行動を変化させました。 最近のイノベーション創出のプロセスでは、技術研究や製品開発、デザイン開発のみならず、もっと上流行程にある「音楽を持ち歩く」というような、製品やサービスの「コンセプト」そのものを生み出す、または作り替える部分に注目が集まっています。 今回は、そんなイノベーションに欠かせない「コンセプト」とは何か、なぜ今それが必須なのかについてご紹介したいと思います。