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“Path to Innovation”は、イノベーション・コンサルティング会社i.labが運営するWEBジャーナルです。

イノベーションに関連した、アイデア創出手法やマネジメント方法、さらに、おすすめの論文や書籍について紹介します。また、注目すべき先端技術や社会事象などについても、イノベーションが発生し得る「機会」としての視点から解説していきます。

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日本文化に根ざした
新しいコンセプトこそが、
日本発イノベーションの
種になる

みなさん、イノベーションと聞いて思い出すのは何でしょうか。 おそらく少なくない方々は、企業で言うとGoogleやApple、また、それに関わる製品やサービスなど思い浮かべるのではないでしょうか。日本発のものとしては、かつてSonyが生み出した音楽を持ち歩くというコンセプトの製品「ウォークマン」は、世界に衝撃を与え、確かにイノベーションの必要条件となる人々の価値観や行動を変化させました。 最近のイノベーション創出のプロセスでは、技術研究や製品開発、デザイン開発のみならず、もっと上流行程にある「音楽を持ち歩く」というような、製品やサービスの「コンセプト」そのものを生み出す、または作り替える部分に注目が集まっています。 今回は、そんなイノベーションに欠かせない「コンセプト」とは何か、なぜ今それが必須なのかについてご紹介したいと思います。

Yukinobu Yokota / 2014.8.25

Photo by Raphael Koh

日本メーカーの弱点は、新しい「コンセプト」に踏み出せないところ


製造の技術にも定評があり、質の高い量産体制もある日本。日本のものづくりの技術力の高さは、世界的にも高い信頼を得ています。現在、iPhone5の部品シェアの50%以上を日本の部品メーカーが占めていることからも、その高い技術力が伺えます。

しかし、このような革新的コンセプトを持つ製品を支える確かな技術力がありながら、日本ではアップル製品のような革新的コンセプトを持つ製品が生まれていないのが現状です。その理由として挙げられるのは、日本はこれまで技術面の優位性確保に重きを置いていたがために、より人の面の利用体験や行動変容、社会変化の予兆等への考察が足りなかったのではないかと考えられます。製品単体でのビジネスではなく、ユーザーの利用体験や行動変容、社会変化までを検討の範疇に含んだ、調和的で方向性を有した全体観のあるコンセプトが弱かったと言えるでしょう。繰り返しになりますが、日本企業は、コンセプトを創ったり、既存製品のそれを変更したりする部分が弱いと考えます。

アップル製品を目の前にしたときのあのワクワク感、そこにはユーザーの新しい利用体験を想起させながらも、決してユーザーに媚を売らない、革新的な製品のもつコンセプトの強さを感じますよね。

新しいコンセプトの事業を世界へ。今の日本に求められること。


現在、日本語圏の市場は、英語圏、中国語圏と比べれば、もちろん大きいとは言えません。英語圏の規模は日本語圏の規模の約10倍ほど、中国語圏は日本語圏の15倍ほど。これは、母語や公用語人口からみても当然とも言えます。しかし、それでも日本語圏の市場は1億2000万人以上の規模が出来上がっているといえるでしょう。そのため、欧米で流行ったことをそのまま日本にもってくるだけでも事業は成立します。ですが、それは単なる受け売りビジネスでしかありません。成功と言っても中途半端なものになり、グローバル化が進む現代においては、長期的な成功は見込めません。そういった問題を抱えた現状で今後、必要とされることは何なのでしょうか。

それは、ずばり日本から世界に新しいコンセプトの事業を発信していくことなのではないかと私たちは考えます。日本の事業のコンセプトの弱さを先述しましたが、これから日本が日本語圏の市場を超え、世界的にビジネスを行うためには、日本から世界に新しいコンセプトを発信していくことが必要なのです。

世界で戦う日本企業を支えるものは、日本文化に根ざしたコンセプト


日本にも、トヨタ、無印良品、LINE…など、世界で戦っている企業や事業があります。これらの企業に共通している点を挙げると、どれも事業や製品、サービスのコンセプトが日本文化に根ざしているということです。

世界販売台数、1,000万台を2013年度に達成したトヨタ。そのトヨタが大切にしている組織文化として挙げられるものとして、1935年に制定された「豊田綱領」が挙げられます。創業者である豊田佐吉の没後、豊田利三郎と喜一郎が遺訓としてまとめたもので、今もグループの原点となっているものです。その中では、華美を戒め質実剛健であるべき、といったことや、家庭的な美風を盛んにすること、など日本的な価値観が盛り込まれています。これは、1992年に制定された「トヨタ基本理念」にもその精神はそのまま引き継がれ、現在に至っています。その精神は、トヨタが製品として送り出す自動車にも、色濃くコンセプトとして注入されているように感じられます。家族で安心して使える信頼感ある品質・デザイン、自然との共生意識を誘起させるプリウス、そして華美すぎず質実剛健なレクサスブランドなどです。また、顧客とのコミュニケーションの取り方にも、前述の家庭的な美風を感じられます。

また、2014年6月現在、世界24カ国、263店舗にて展開している無印良品。1980年の日本に、消費社会の一種のアンチテーゼとして生まれました。ノーブランド(無印)であるけれども良いもの(良品)を、そして生産工程における手間も省き、豪華さではなく簡素な商品を手がけてきた無印良品は、長く愛されています。この簡素さの中に美や価値観を見出だす姿勢には、茶道における美意識を見ることが出来ます。簡素だからこそ、そこにイメージをもって価値や美意識を見立てていく茶道の精神は、無印良品のシンプルな製品にも同じように見ることが出来ます。こういった日本文化に源流をもつ美意識が、今、海外にも受け入れられているのです。

そして、2011年6月のサービス開始以来、ユーザー数3億人を突破したLINEもまた、世界で活躍している企業です。このLINEが他のSNSと一線を画しているのは一体何なのでしょう。それは、拡散的な人間関係構築ではなく、LINE がよりクローズドな、知り合い同士のコミュニケーションを活発にしていくことを目的につくられたサービスである点ではないでしょうか。LINEを象徴する機能であるスタンプも、よりコミュニケーションを密にしたい、また言語化しづらいニュアンスも漫画のキャラクターを連想させるスタンプでなら伝えられる、重要なツールとなっています。不特定多数の見知らぬ人たちと繋がることよりも、身近な人との和をより密にしていこうという態度は、日本的な文化と言えるのではないでしょうか。大切な人とのコミュニケーションをより楽しく、豊かなものにすることを目指すのは、日本的なものと言えるのではないでしょうか。

これらのように、世界で戦う日本企業には、日本文化に根ざしたコンセプトがあります。外からのものを受け入れるのではなく、これまで培ってきたものをコンセプトにする。それが、今、必要とされていることであり、グローバルな市場におけるイノベーション戦略において重要なのではないかと考えています。

繰り返しになりますが、既にある他社コンセプトのコピーや派生製品を作り続けるのではなく、文化に根ざした新たなコンセプトを持った事業や製品、サービスの形で発信していくこと。そうしたものが長期的にも世界で敬意をもたれるものになるのではないでしょうか。
Author
横田 幸信

Yukinobu Yokota
i.lab Managing Director

i.schoolディレクター。早稲田大学ビジネススクール(WBS)非常勤講師。九州大学理学部物理学科卒業、九州大学大学院理学府凝縮系科学専攻修士課程修了、東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程中途退学。修士課程修了後は、野村総合研究所にて経営コンサルティング業務に携わる。その後、イノベーション教育の先駆者である東大発イノベーション教育プログラムi.school(旧名:東京大学i.school)では、2013年度よりディレクターとして活動全体のマネジメントを行っている。イノベーション創出のためのプロセス設計とマネジメント方法を専門として、コンサルティング活動と実践的研究・教育活動を行っている。近著に「INNOVATION PATH」(日経BP社)がある。

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