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こんにちは、i.labの海外インターンをしています、川口翔平と申します。
私は現在、パリのフランス国立土木学校の修士課程で都市計画の勉強をしています。こちらのブログではフランスに住んでいる地の利を活かし、フランスにおける「イノベーション」の動向や事例を紹介していく予定です。
今回はその第一弾として、5月24日から26日にかけてパリで行われた大規模スタートアップイベント、「Viva Technology」にて取材を行い、その模様を数回に渡ってお届けします。そのイントロダクションとなる本記事では、まずイベントの背景や会場の雰囲気をお伝えします。
1.
ところで、皆さんは「パリ」と言えば、どのようなイメージを思い浮かべますか。
エッフェル塔やルーヴル美術館、ノートルダム大聖堂、セーヌ川、モンマルトルの丘、オープンカフェやブティックなどでしょうか。もちろんこれらはパリというまちを構成する重要なシンボルでしょう。そして、もしここに私の個人的な印象をつけ加えるとすると、1900年の万国博覧会のために建設された「グラン・パレ」もそこに入るのではないかと思っています。
かつて、ドイツの哲学者のヴォルター・ベンヤミン(1892-1940)はその著書『19世紀の首都・パリ』(1939)の中で、万国博覧会を当時のパリにおける重要な出来事として取り上げています。そして「万国博覧会は商品の交換価値を最大限に引き上げ、理想的に見せることができる場」であり、「商品という存在がこの世界の『王』となること、そしてその商品を取り巻く欲望とその消費という名の『気晴らし』の誕生」(*1、筆者訳)という、その時代の重要なパラダイムシフトの一つを指摘しました。
この博覧会の伝統は、それから100年以上が経った現在のパリにおいても「salon」という名で残っています。そこでは毎週のように、ワインやチーズ、チョコレートなどのフランスの定番商品から、ペットや女性用スポーツ用品、不動産、日本文化まで、様々な「商品」が巨大な会場に展示され、人々がそこに詰めかけ、取引が行われているのです。
今回取材したイベント「Viva Technology」(以降VivaTechと表記)も、このようにパリに脈々と残る博覧会の伝統を一つの背景として成立しているのかもしれません。
2.
VivaTechは2016年に始まり、今年で3年目を迎えるスタートアップイベントです。初年度には約5000社のスタートアップが参加していたのが現在では約8000社となり、イベントは急速な成長を遂げています。また、世界最大級の家電見本市であるアメリカのCESへの参加社数が4500社、日本最大級のスタートアップイベントであるSlush Tokyoへの参加社数が600社であることからも、このイベントの規模の大きさが窺えます。
さてここからは、実際にイベント会場の様子を見てみましょう。
パリの南端の地下鉄の駅で降りると、既に会場の入り口には多くの人々が集まっています。
荷物検査を抜け会場内に入ると、まず最初に目に入ってくるのは様々な企業のブースと多くの参加者です。
地図を見てみると、会場の中心部とその両サイドには大企業の入る大きなブースが置かれ(写真の赤色、薄緑色部)、それらの間に中小企業や公共団体などが入る小さなブースが配置されています(ピンク色部)。また通路の交差点や周囲の壁際には、ピッチやカンファレンス用の大小のステージが複数設置されていました(黄色、水色、濃青色部)。
3.
VivaTechに参加している大企業は、大多数がフランスの企業であり、その他はGoogleやFacebook、IBM、Microsoft、SoftBankといった世界的な企業でした。フランスの大企業としては、建設(Vinci、Bouygues)、銀行(BNP Paribas)、郵便(La Poste)、通信(Orange)、娯楽(AccorHotels、LVMH、L'Oréal)、鉄道(SNCF、RATP)、メーカー(Airbus)、メディア(TF1)など、様々な分野のトップ企業のみが参加しており、それらの企業が各々の特色を活かしたブースを競い合うように出展している様子は迫力がありました。
Googleのブース:とりわけ多くの人で賑わっていました。
SoftBankのブース:大勢のPepperが迎えてくれます。
La Posteのブース:手前のテーブルのように軽食が振る舞われていることもありました。
AccorHotelsのブース:右側はホテルのような快適な環境でピッチを聞くことのできるスペースになっていました。
その周囲には、フランスの中小企業や外国、地方自治体、大学のブースがありました。外国のブースとしては、イギリスやドイツ、スイス、ロシアなどのヨーロッパの国々から、イスラエルや韓国、日本(JETROによる)などの遠方から参加している国まで、世界中の国々が参加しています。中でも目立っていたのが、今年のViva Techで特集をされていたアフリカのブースでした(モロッコ、ウガンダ、ルワンダ、南アフリカ、ケニア等)。アフリカのスタートアップについては今後の記事で詳しく取りあげる予定です。
ロシアのブース:商談用のカウンター机が特徴的でした。
モロッコのブース:全てのブースにモニターを備え付けることで、自国のテクノロジー力をアピールしているようでした。
日本のブース:プロダクトを展示しているスタートアップが多く、常に人で賑わっていました。
また、大学のブースとしてはエコール・ポリテクニークや国立高等鉱業学校など、フランスの理系国立大学の中でもジェネラリスト教育に特化した大学が参加しており、各大学のプログラムで育成された学生のスタートアップが展示を行っていました。
それに加えてフランスの地方自治体のブースでは、フランスの地方創生政策の一環で各自治体から支援を受けているスタートアップの展示が見られました。
エコール・ポリテクニークのブース:学生がとても熱心に自らの事業を説明していました。
南フランス地方のブース:海や観光という地域の特色に合致したスタートアップが展示を行っていました。
4.
ここまで、イベントの背景と基本情報に加え、会場全体の様子や各ブースの様子をご紹介しました。
次回はこの会場内で実際にどのようなことが行われていたのか、またこれらの様子から考察される「企業とアイデア・技術の関係性の現在」について書く予定です。
それでは、A bientôt !
*1
Walter Benjamin, "Paris, capitale du XIXème siècle" (1939), B. Grandville ou les expositions universelles, I, 二段落目より引用
"Les expositions universelles idéalisent la valeur d’échange des marchandises. [...]
L’intronisation de la marchandise et la splendeur des distractions qui l’entourent, [...]"
文、写真
国立土木学校(Ecole nationale des ponts et chaussées)、川口翔平
取材協力
国立土木学校、信夫あゆみ