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“Path to Innovation”は、イノベーション・コンサルティング会社i.labが運営するWEBジャーナルです。

イノベーションに関連した、アイデア創出手法やマネジメント方法、さらに、おすすめの論文や書籍について紹介します。また、注目すべき先端技術や社会事象などについても、イノベーションが発生し得る「機会」としての視点から解説していきます。

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多様性に富んだ部門横断チームを率いる「リーダー人材」の育て方

今回は、多様性に富んだチームをリードする際に重要な「Facilitator Leadership」と「Inclusive Leadership」についてご紹介します。また、それらのリーダーシップを持った人材を育成する方法についても、Hult International Business Schoolという教育機関の事例と、ブルームバーグやユニリーバという民間企業の事例と合わせてご紹介します。

Toshihiro Tsukahara / 2020.12.04

「Facilitator Leadership」と「Inclusive Leadership」は、Hult International Business School(以下:ハルト)、ブルームバーグ、ユニリーバのような国際色豊かで多文化的な環境下で必須のリーダーシップとして紹介されることが多いのですが、多様なバックグラウンドを持ったメンバーで構成されるチームのポテンシャルを引き出すという意味で、ビジネス、デザイン、エンジニアリングなど職能の異なるメンバーが集まった部門横断的なチームにおいても必要となります。

「専門性や部門がバラバラで常識や価値観が異なる人材が集められたチームの責任者を任されたけど、どうチームと接していいかわからない」「リーダーとして、より上手く、効果的に多様性あるチームのポテンシャルを引き出してチームとしての成果を上げていきたい」と考える人たちが、チームにおける多様性を「対立を生み出す弱み」として認識するのではなく、「成果を生み出すための強み」として捉え、より効果的に活用していくためのご参考となれば幸いです。

それでは、まず教育機関を代表してハルトの事例をもとに、「Facilitator Leadership」と「Inclusive Leadership」がそれぞれどんなリーダーシップで、どのようにすると育むことができるのか、ご紹介していきたいと思います。

多様性ある環境下で成果を出すリーダーの必須要件:Facilitator LeadershipとInclusive Leadership


「Facilitator Leadership」と「Inclusive Leadership」を持った人材の育成強い教育機関の例として ハルトがあげられます。

ハルトは120か国以上から学生、教授が集まる国際的なビジネススクールです。世界最古とも呼ばれる経営戦略ファーム、アーサー・D・リトルによって米ボストンに設立され、近年はロンドン、ドバイ、上海キャンパスもオープンし、英Ashridge Business Schoolとの合併も経て、世界各国で学部生からエグゼクティブに至るまで様々な層に教育サービスを提供しています。

特にリーダーシップ教育の一環として、全てのカリキュラム、あらゆる個別の授業でグループワークが課されるようになっており、その際に、「Facilitator Leadership」、「Inclusive Leadership」という言葉が繰り返し強調されるのがハルトの特徴であるため、今回のブログでの参考事例として取り上げています。

Facilitator Leadershipとは


近年日本語でも「ファシリテーター型リーダーシップ」という言葉を聞く機会も増えていると思います。「ファシリテーター」とは、元々の語義として”物事が円滑に進むよう促す人物”を意味し、近年では”個々人がそれぞれの個性や才能を自発的に発揮するのを促しながら場回しする人物”を意味します。Facilitator Leadershipとは、つまり、「各メンバーの才能や創造力を引き出し、活かすリーダーシップ」と言えるでしょう。



Facilitator Leadershipが発揮された場合の具体例としては以下の通りです。

Inclusive Leadershipとは


「Inclusive Leadership」については聞き覚えのない方も多いのではないでしょうか。ここでの「Inclusive」には「あらゆるものを包含する」といった意味合いがあり、特にリーダーシップの文脈では「あらゆる人の経験や能力、考え方を認め、包み込み、活かす」といったことを指します。つまり、Inclusive Leadershipとは、「自ら新しい価値観や多様性を率先して受容するだけでなく、チームメンバー皆がそれをできる風土を生み出していくリーダーシップ」です。



Inclusive Leadershipが発揮された場合の具体例としては以下の通りです。

では、多様性に富んだチームをリードする際に、なぜこれら2つのリーダーシップが必要とされるのでしょうか。

多様性あるチームにおける「Facilitator Leadership」と「Inclusive Leadership」の重要性




Facilitator Leadership 、Inclusive Leadershipがどれほど重要かは、多様性あるチームにおいて、それらのリーダーシップを誰も発揮しない状況を考えてみるとわかりやすいかと思います。

常識、言語、コミュニケーションスタイル、職能など様々な相違点があるメンバーによって構成されるチームにおいて、各メンバーが各々好きなタイミングで自己流の主張を繰り返すとしましょう。そのような状況下では、ディスカッションそのものが成立せず、チームとしてのアウトプットが出ないばかりか、コミュニケーションすら危ういでしょう。そういった状況下でFacilitator Leadershipが必要になります。

また、上記のような状況で、誰かが場回し”のみ”を行ったとしても、職位の高い人など一部の人間のみの意見が強く取り上げられたり、建前上各メンバーの主張は共有するが誰も聞く耳は持っていなかったりする状況に陥ってしまっては、多様性が強みとして活用できていない、メンバーとしても居心地の悪いチームになってしまいます。そうした状況において、Inclusive Leadershipが求められます。

つまり、多様性あるチームが、多様性をしっかりと武器にしながら、チームとして建設的な議論を行い、結果を出していくためには、そのチームの中でFacilitator Leadership 、Inclusive Leadershipの両方がセットで発揮される状況が必要不可欠であると言えるでしょう。

それでは、どうしたらこの2つのリーダーシップを育み・磨けるのでしょうか。

Facilitator LeadershipとInclusive Leadershipの磨き方




ハルトでは、Facilitator Leadershipを磨くため、日頃から次のことを意識するように指導があります。

多様性に富んだチームをファシリテーションするためには、メンバーと円滑にコミュニケーションをとれる関係性を築くことが重要です。そこで、ファシリテーター型リーダーにはメンバーとパーソナルコネクション(個人的な繋がり)を築き上げる能力が求められます。最終的には形式的な業務指示などを出さなくても日常的なコミュニケーションだけで自然とプロジェクトのディレクションができるレベルの関係性を持てることが理想とされています。日頃から他者をよく見てあるべき関係性を思い通りに構築するためにはどうしたら良いのか考え続けることで、いざプロジェクトが始まった時もメンバーとのパーソナルコネクションを上手に築くことができます。

また建設的に議論を進めるためには、チームメンバーの意見や自主性を潰さない配慮も必要です。肯定的な気持ちでメンバーと接し、相手の話を聞いた上でより良いアイデアが相手から出てくるのを促すような言葉を使うことが望ましいと言えます。相手に否定されるとモチベーションが下がるのは人類共通です。議論の際も「このやり方やアイデアは非効率/非合理的だ」と否定の言葉を使うのではなく「チーム共通の目的のためにはこの部分をもう少し検討するとより良くなるのではないか」といった言い方が望ましいでしょう。

メンバーが自発的に意見を言える空気づくりができることもファシリテーターとしてのスキルの一つです。チームメンバーからの意見を重ね合わせてチームとしてのアウトプットを作り出していく必要があるため、意見を引き出せる理想的な聞き手としてのスタンスのとり方、相槌の打ち方、表情や仕草の作り方など、日頃から意識して実践することで、プロジェクトでもその空気を再現し、アウトプットが出せるようになります。

またInclusive Leadershipを磨くためには、次のことを意識すると良いと言われています。

自分と異なる価値観など、チームの多様性を受け入れるリーダーであるためには、自分がそうあろうとする意識を持つことが重要です。一方で、「相手の気持ちがわかったつもり」で相手に対し、知ったような態度をとることは、むしろ相手を不快にさせる行為であり、相手との関係を悪化させることにもなります。そのため、相手の目線で相手の感情や思考を読み解く共感力が必要です。共感力は、日頃から相手に興味を持ち、自分と相手との違いをメタ的に認識し、相手の目線・気持ちになって物事を捉えようという意識を持ち続けることで高めていくことができます。

また、多様性や新しい価値観を受容できるリーダーには、時には自分とは異なる意見や価値を理解できない意見を聞き入れる懐の深さも求められます。多様性のあるチームであるほど、同質的な意見が少なくなり、自分にとって聞こえのいい言葉だけでなく、不都合な言葉をも受け止める必要が出てきます。より良い意見を生み出していく力を養うためには、まず日頃から自分とは異なる意見にも意識的に耳を傾ける姿勢を持つところから初めてみましょう。最初はストレスに感じることもあるかもしれませんが、自分とは異なる意見の中から自分になかった視点を建設的に取り込んでいけるようになると、多種多様な意見に対する寛容性を持つことの価値も実感できるようになるはずです。

一方で、チームメンバーが言うこと全てを受け身で許容することはInclusive Leadershipを磨く事にはつながりません。「Inclusive Leadership」は「多様性を許容するという方法によって組織やチームとして成果を出すためのリーダーシップ」という意味合いが含まれているからです。従って、単に受容的になるのではなく、メンバーそれぞれの意見が尊重される文化を形成しながら目的を遂行し、成果を出していく必要があります。現実問題としては時間の制約上、意見を十分に聞けないまま物事を進めたり、合意形成に至らないまま意思決定をしたりせざるを得ない状況も時にはあるかもしれませんが、常に成果とメンバーへのリスペクトが両立できるようなアプローチを意識的に取るよう心がけましょう。

これらのことを意識することで、Facilitator LeadershipとInclusive Leadership、それぞれを意識的に磨くことができます。

Facilitator LeadershipとInclusive Leadershipを備えた人材を育てるための仕組み




それでは本人の日常的な努力だけでなく、組織としてFacilitator LeadershipとInclusive Leadershipを備えた人材を育成していくための仕組みには、どのようなものがあるでしょうか。

ハルトでのリーダーシップ教育を例にご紹介します。

ハルトでグループワークが多いことは既にご紹介しましたが、それには理由があります。FacilitatorLeadershipとInclusive Leadershipを学生に身につけさせる仕組みとしてグループワークが有効だと考えられているからです。

ハルトのグループワークには、次のような特徴があります。

グループワークでは、文化や国籍、学歴、専門性などの面で対極のバックグラウンドを持つメンバー同士がチームを組み、共同作業することが求められます。例えば、日本人はブラジル人とペアにされることがあります。意見が異なるどころか、衝突する可能性も高いチームメンバー構成をあえて行うことで、学生に多様性や新しい価値観を乗り越える力をつけさせるのです。

また、プロジェクトの進め方にも特徴があり、プロジェクトの計画表を初期段階で必ず提示させます。ファシリテーション経験が少ない学生ほど、グループディスカッションにおいては結論のないブレインストーミングで終わってしまうことや、プロジェクトの舵取りで進むべき道を見失ってしまうことが多々あります。そこで、予め計画表を用意することで、プロジェクトや各タスクの大まかな目的や意味を確認できる状況を作り、それに沿って個別のタスクやディスカッションのファシリテーションをさせるのです。

教授や授業協力者のビジネスマン、大学スタッフなどの第三者がファシリテーターとして各チームをサポートし、どうファシリテーションするべきかお手本を示すこともあります。よりトピックの背景知識があり、ファシリテーターとしての経験もある人物のお手本をみることで、効果的なファシリテーションをその場で学ぶことができます。

そして、評価段階での仕組みとしてはPeer Reviewがあります。Peer Reviewとは、チームメンバー内の相互評価制度です。チーム内にInclusiveな(あらゆるものを許容する)文化があったか、ファシリテーションがうまく行われていたかを評価するには、チーム内からの評価が最も直接的で信用できるソースだからです。それぞれチームメンバーが評価項目に具体例やエピソードを記入し、それを監督者と、時にはSecond Grader(第三者評価者)が評価するようになっています。Peer Reviewは評価の客観性の担保が難しい面もあるので、具体性がないもの、他の記録との整合性がないものは弾くなど、評価の客観性を担保するための工夫も行われています。。

ハルトではこうした仕組みによって、Facilitator LeadershipとInclusive Leadershipという2つのリーダーシップを備えた人材を安定的に育成しているのです。

企業におけるFacilitator LeadershipとInclusive Leadershipを育む仕組み




ではアカデミアだけでなく、ビジネスの世界ではどのようにFacilitator LeadershipとInclusive Leadershipを備えた人材を育成しているのでしょうか。Facilitator Leadershipを重視しているブルームバーグとInclusive Leadershipを重視しているユニリーバの例を取り上げていきます。

ブルームバーグでは、決裁権限はないがタスクとしてはマネージャーと同じことを行うDeputy Manager(代理マネージャー)というポジションを設置しています。そしてこのDeputy Managerのポジションでファシリテーションを行う多くの機会が与えられ、チームメンバーの個性を活かせた人物が正規のマネージャーへと昇格していきます。つまり、マネジメントポジションにつくための昇進条件として、Facilitator Leadershipを設定しています。

また、ユニリーバでは、マネージャーが各プロジェクトリーダーに対し、仕事への考え方や目的、気持ちなどをヒアリングする機会が設けられています。頻度としては週一回程度行います。これはマネージャーがリーダーの個性や価値観に目を向け、話を聞き、実際にリーダー側の気持ちに沿ったタスク割などを行うための一つの仕組みです。こういった制度を運用することで、マネージャーがリーダーの気持ちを考慮したタスク設計を行うことを会社として促すと同時に、リーダーが自分の個性や価値観を表に出して意見を述べていい文化を組織的に作り上げようとしているのです。つまり、Inclusive Leadership を組織文化として定着させようとしている例と言えるでしょう。

ご紹介した2社のように、実務の中でこういった形でFacilitator LeadershipとInclusive Leadershipを備えた人材を育成する取り組みがされています。

顕在化しつつある「多様性に富んだチームをリードできる人材の不足」という課題


ここまで、Facilitator LeadershipとInclusive Leadershipについて、詳しくご紹介してきました。

Facilitator LeadershipとInclusive Leadershipは、インターナショナルな環境下だけでなくデザイン・エンジニア・ビジネスなどによる部門横断的なチームにおいても必須のリーダーシップです。それは部門横断的なチームも、メンバー間で前提となる常識・文化・価値観・時に言語すらも異なる場合が多々あり、状況としてインターナショナルチームと同じだからです。

現在、部門横断的なチームによるイノベーションプロジェクトは一種のトレンドになっており、多くの組織で次々に部門横断的なチームの組成が行われています。一方で、そういった多種多様なメンバーによって構成されるチームをマネジメント・リードできる人材が足りておらず、大きな課題として顕在化してきているケースも少なくないのではないでしょうか。その課題に対する一つのアプローチとして、あるべきリーダーシップ、そういったリーダーシップを兼ね備えた人材の育成方法をご紹介しました。

ビジネス、デザイン、エンジニアリングなどの人材を揃えたチームが、リーダーをハブとしたワンチームとしてまとまることができれば、新しい価値を世の中に生み出すイノベーション活動もより活発で影響力の大きいものになるかと思います。そのような状況を意図的に作り上げる上で、今回の記事をご参考にしていただければ幸いです。

i.labは、部門横断的なチームによる新規事業プロジェクトを日本で先駆けて行ってきたイノベーションファームです。成果物の作成だけでなく、部門横断的なチームにおけるリーダーシップの取り方やコミュニケーション方法などに関しても知見がございます。ご質問やご相談、お困りごとなどございましたら、いつでもご相談お待ちしております。

執筆協力:檜山悠太朗(i.labインターン、Hult International Business School 在学中)
Author
塚原章裕

Toshihiro Tsukahara
i.lab Service&Business Designer

一橋大学商学部卒業。ischool修了生。総合商社にて輸送機グループの予決算業務に従事した後、現職。デザインリサーチ・サービスデザイン・ビジネスデザイン領域を担当。在学時にAalto University(Finland)にてInnovation/Design Managementを学ぶ。Hitotsubashi Global Consumer Survey、博報堂グループ会社での生活者調査、エチオピアでのプロボノ活動などを通じて、日本・中国・インドネシア・エチオピアにおけるトレンド・ユーザー・マーケット調査の経験がある。共著「インドネシアはポスト・チャイナとなるのか アジア巨大市場の10年後」(同文舘出版)。

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