Path to Innovation Path to Innovation

___ Innovation Journal by i.lab inc.
About this site
Close

“Path to Innovation”は、イノベーション・コンサルティング会社i.labが運営するWEBジャーナルです。

イノベーションに関連した、アイデア創出手法やマネジメント方法、さらに、おすすめの論文や書籍について紹介します。また、注目すべき先端技術や社会事象などについても、イノベーションが発生し得る「機会」としての視点から解説していきます。

Thoughts

フランス・イノベーション通信 Viva Technology編 ①イントロダクション

フランスのイノベーション事情について、現場取材によるレポートをお届けします。初回となる今回は、5月24日から5月26日にかけてパリで行われた世界有数のスタートアップイベント、「Viva Technology」について、会場の様子をレポートします。

Shohei Kawaguchi / 2018.7.19

0.
こんにちは、i.labの海外インターンをしています、川口翔平と申します。
私は現在、パリのフランス国立土木学校の修士課程で都市計画の勉強をしています。こちらのブログではフランスに住んでいる地の利を活かし、フランスにおける「イノベーション」の動向や事例を紹介していく予定です。

今回はその第一弾として、5月24日から26日にかけてパリで行われた大規模スタートアップイベント、「Viva Technology」にて取材を行い、その模様を数回に渡ってお届けします。そのイントロダクションとなる本記事では、まずイベントの背景や会場の雰囲気をお伝えします。

1.
ところで、皆さんは「パリ」と言えば、どのようなイメージを思い浮かべますか。

エッフェル塔やルーヴル美術館、ノートルダム大聖堂、セーヌ川、モンマルトルの丘、オープンカフェやブティックなどでしょうか。もちろんこれらはパリというまちを構成する重要なシンボルでしょう。そして、もしここに私の個人的な印象をつけ加えるとすると、1900年の万国博覧会のために建設された「グラン・パレ」もそこに入るのではないかと思っています。

かつて、ドイツの哲学者のヴォルター・ベンヤミン(1892-1940)はその著書『19世紀の首都・パリ』(1939)の中で、万国博覧会を当時のパリにおける重要な出来事として取り上げています。そして「万国博覧会は商品の交換価値を最大限に引き上げ、理想的に見せることができる場」であり、「商品という存在がこの世界の『王』となること、そしてその商品を取り巻く欲望とその消費という名の『気晴らし』の誕生」(*1、筆者訳)という、その時代の重要なパラダイムシフトの一つを指摘しました。

この博覧会の伝統は、それから100年以上が経った現在のパリにおいても「salon」という名で残っています。そこでは毎週のように、ワインやチーズ、チョコレートなどのフランスの定番商品から、ペットや女性用スポーツ用品、不動産、日本文化まで、様々な「商品」が巨大な会場に展示され、人々がそこに詰めかけ、取引が行われているのです。

今回取材したイベント「Viva Technology」(以降VivaTechと表記)も、このようにパリに脈々と残る博覧会の伝統を一つの背景として成立しているのかもしれません。

2.
VivaTechは2016年に始まり、今年で3年目を迎えるスタートアップイベントです。初年度には約5000社のスタートアップが参加していたのが現在では約8000社となり、イベントは急速な成長を遂げています。また、世界最大級の家電見本市であるアメリカのCESへの参加社数が4500社、日本最大級のスタートアップイベントであるSlush Tokyoへの参加社数が600社であることからも、このイベントの規模の大きさが窺えます。

さてここからは、実際にイベント会場の様子を見てみましょう。

パリの南端の地下鉄の駅で降りると、既に会場の入り口には多くの人々が集まっています。%e5%85%a5%e3%82%8a%e5%8f%a3%ef%bc%88%e5%b0%8f%ef%bc%89荷物検査を抜け会場内に入ると、まず最初に目に入ってくるのは様々な企業のブースと多くの参加者です。3_%e4%bf%af%e7%9e%b0%e5%b0%8f

地図を見てみると、会場の中心部とその両サイドには大企業の入る大きなブースが置かれ(写真の赤色、薄緑色部)、それらの間に中小企業や公共団体などが入る小さなブースが配置されています(ピンク色部)。また通路の交差点や周囲の壁際には、ピッチやカンファレンス用の大小のステージが複数設置されていました(黄色、水色、濃青色部)。4_%e5%9c%b0%e5%9b%b3%e5%b0%8f

3.
VivaTechに参加している大企業は、大多数がフランスの企業であり、その他はGoogleやFacebook、IBM、Microsoft、SoftBankといった世界的な企業でした。フランスの大企業としては、建設(Vinci、Bouygues)、銀行(BNP Paribas)、郵便(La Poste)、通信(Orange)、娯楽(AccorHotels、LVMH、L'Oréal)、鉄道(SNCF、RATP)、メーカー(Airbus)、メディア(TF1)など、様々な分野のトップ企業のみが参加しており、それらの企業が各々の特色を活かしたブースを競い合うように出展している様子は迫力がありました。

5_google%e5%b0%8fGoogleのブース:とりわけ多くの人で賑わっていました。6_softbank%e5%b0%8fSoftBankのブース:大勢のPepperが迎えてくれます。7_poste%e5%b0%8fLa Posteのブース:手前のテーブルのように軽食が振る舞われていることもありました。

8_accorhotels%e5%b0%8fAccorHotelsのブース:右側はホテルのような快適な環境でピッチを聞くことのできるスペースになっていました。

その周囲には、フランスの中小企業や外国、地方自治体、大学のブースがありました。外国のブースとしては、イギリスやドイツ、スイス、ロシアなどのヨーロッパの国々から、イスラエルや韓国、日本(JETROによる)などの遠方から参加している国まで、世界中の国々が参加しています。中でも目立っていたのが、今年のViva Techで特集をされていたアフリカのブースでした(モロッコ、ウガンダ、ルワンダ、南アフリカ、ケニア等)。アフリカのスタートアップについては今後の記事で詳しく取りあげる予定です。

9_%e3%83%ad%e3%82%b7%e3%82%a2%ef%bc%88%e5%b0%8f%ef%bc%89ロシアのブース:商談用のカウンター机が特徴的でした。10_%c2%82%e3%83%a2%e3%83%ad%e3%83%83%e3%82%b3%ef%bc%88%e5%b0%8f%ef%bc%89モロッコのブース:全てのブースにモニターを備え付けることで、自国のテクノロジー力をアピールしているようでした。11_%e6%97%a5%e6%9c%ac%e5%b0%8f日本のブース:プロダクトを展示しているスタートアップが多く、常に人で賑わっていました。

また、大学のブースとしてはエコール・ポリテクニークや国立高等鉱業学校など、フランスの理系国立大学の中でもジェネラリスト教育に特化した大学が参加しており、各大学のプログラムで育成された学生のスタートアップが展示を行っていました。

それに加えてフランスの地方自治体のブースでは、フランスの地方創生政策の一環で各自治体から支援を受けているスタートアップの展示が見られました。12_%e5%a4%a7%e5%ad%a6%e5%b0%8fエコール・ポリテクニークのブース:学生がとても熱心に自らの事業を説明していました。13_%e5%9c%b0%e6%96%b9%e5%b0%8f南フランス地方のブース:海や観光という地域の特色に合致したスタートアップが展示を行っていました。

4.
ここまで、イベントの背景と基本情報に加え、会場全体の様子や各ブースの様子をご紹介しました。
次回はこの会場内で実際にどのようなことが行われていたのか、またこれらの様子から考察される「企業とアイデア・技術の関係性の現在」について書く予定です。
それでは、A bientôt !

*1
Walter Benjamin, "Paris, capitale du XIXème siècle" (1939), B. Grandville ou les expositions universelles, I, 二段落目より引用
"Les expositions universelles idéalisent la valeur d’échange des marchandises. [...]
L’intronisation de la marchandise et la splendeur des distractions qui l’entourent, [...]"

文、写真
国立土木学校(Ecole nationale des ponts et chaussées)、川口翔平

取材協力
国立土木学校、信夫あゆみ
Author

Shohei Kawaguchi
i.lab Internship

フランス国立土木学校(Ecole nationale des ponts et chaussées)修士課程・都市/環境/交通コース・都市政策専攻、東京大学大学院修士課程・工学系研究科社会基盤学専攻・国際プロジェクト研究室所属。TISP(Tokyo Innovation Summer Program)2015にて初めてイノベーションの概念に触れ、その後東京大学i.school2016年度通年生プログラムを修了。その集大成としてチームで出場したEDGE Innovation Challenge Competition 2017にてSilver award、Audience awardを受賞。現在はフランスのイノベーション事情の調査を在外インターンとして行っている。

Related Posts
Thoughts

イスラエル

Tomohiko Terada
2018.11.22

i.lab マネージャー/ビジネスデザイナーの寺田です。今回はイスラエルについて紹介します。 i.labでは、イノベーション実現に向けたプロジェクトの一環として、プリンタブルセンサーコード技術研究組合(以下、PSC)に対して投資および事業開発のお手伝いをしています。PSCは2018年2月に設立された組合です。組合員企業がオープンイノベーション方式により得意分野を活かし、温度によって模様が変化する印刷可能な3次元カラーコードを開発しています。 今回、このPSCの仕事の一環として、R&Dパートナーとなるイスラエル企業の探索を目的として、2018年9月3日〜9月6日の旅程で、JETRO主催の JIIN イスラエルIoTミッションに参加しました。 本ミッションは、イスラエル企業との連携及び市場動向把握に向けた最新情報収集や現地動向把握、そしてイスラエル企業とのネットワーク構築を目的としています。 ミッションの後半にはイスラエル最大のスタートアップの祭典である「Digital Life Design (以下、DLD) Tel Aviv Innovation Festival 2018」への視察及び参加が組まれており、濃密な4日間でした。 本ミッションは一般枠とアントレプレナー枠があったのですが、PSCと私は幸運にもアントレプレナー枠に選んで頂きました。

Thoughts

人工知能と
クリエイション

Jun Murakoshi
2017.1.15

「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」と題する野村総合研究所の記事が話題になって、一年以上が経過した。○○デザイナーといった職業は、代替可能性の低い100種の中に比較的多く存在していた印象だが、プロダクトデザイナーとしてあらためて自分の未来の働き方(人工知能との関わり方)に思いを馳せてみた。