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“Path to Innovation”は、イノベーション・コンサルティング会社i.labが運営するWEBジャーナルです。

イノベーションに関連した、アイデア創出手法やマネジメント方法、さらに、おすすめの論文や書籍について紹介します。また、注目すべき先端技術や社会事象などについても、イノベーションが発生し得る「機会」としての視点から解説していきます。

Thoughts

人工知能と
クリエイション

「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」と題する野村総合研究所の記事が話題になって、一年以上が経過した。○○デザイナーといった職業は、代替可能性の低い100種の中に比較的多く存在していた印象だが、プロダクトデザイナーとしてあらためて自分の未来の働き方(人工知能との関わり方)に思いを馳せてみた。

Jun Murakoshi / 2017.1.15

Photo by Lee Campbell

AIデザイナーMolly


狭義のデザイン分野における人工知能の侵蝕というと、真っ先に思い浮かべられるのはWebの世界だろうか。もちろん頼りになるアシスタントやパートナーの誕生と捉える向きもあるだろう。ただどちらにしてもそれは未来の話ではない。既にWebデザインをしてくれる人工知能は「The Grid」というサービスが存在している。実際に公式サイトは、AI Webデザイナーと称する人工知能Mollyがデザインしたものだ。否応なく、人工知能はすぐそこにいる。

 

代替可能なクリエイティビティ


書籍『イノベーションパス』においてi.labマネージング・ディレクターの横田(2016:12)は、「目的意識が無いクリエイティビティは、遠くない将来に人工知能でも代替可能であると考えている」と述べている。たしかに建築やプロダクトデザインの世界で謳われるコンピュテーショナルデザインでは、人工知能に委ねているわけではないものの、既に発散のフェーズと思われる段階で人の手を離れている。CADソフトRhinocerosのプラグインであるGrasshopperがそれにあたる。アルゴリズムを作成し(目的意識を明確にし)、諸条件を与えることで、際限なく「案」を提案してくれる。デザイナーは納得した案が提案された時点で発散フェーズを終了する、もしくは膨大な案を提案させた上で横並び比較して一点を決定する。そして精緻化へと移行する。

 

意識から外れた因子


一方で、この一点に決定(収束)する行為はある意味唐突であり、発散のためのアルゴリズムを作成することより遥かに難易度が高い。決定に至った理由を述べることはできても、それは単一的なものではなく、述べられた理由だけでもなく、いわゆる総合的な判断という名の主観性が介在している。そこにはその日の天候が関わることも許される。意識されていない因子が絡むことに、正解とは違う価値を生み出す要素が潜んでいる。

 

目的意識とコラボレーション


創造における目的意識や偶然性を担保するコラボレーション(他人とのコミュニケーションや個人の思考内での突発的な化学反応)が、今後10年働く上での自分の課題になるように感じている。人工知能とは遠い存在だと楽観視していたクリエイションの分野に、危機感を持って関わるきっかけを与えてくれたことに感謝したい。
Author
村越 淳

Jun Murakoshi
Jun Murakoshi Design, Product Designer

千葉大学大学院デザイン科学専攻修士。英国王立芸術大学院(RCA) Design Products科修士。千葉大学大学院工学研究科特任研究員、同大学国際教育センター特任助教、東京大学知の構造化センター特任研究員を経て現職。 Jun Murakoshi Designにて個人でのデザイン活動も継続して行っており、日本、欧州での展示や受賞多数。

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