Path to Innovation Path to Innovation

___ Innovation Journal by i.lab inc.
About this site
Close

“Path to Innovation”は、イノベーション・コンサルティング会社i.labが運営するWEBジャーナルです。

イノベーションに関連した、アイデア創出手法やマネジメント方法、さらに、おすすめの論文や書籍について紹介します。また、注目すべき先端技術や社会事象などについても、イノベーションが発生し得る「機会」としての視点から解説していきます。

Thoughts

シンガポールの「無人スーパー」、habitat by honestbeeに見る小売店舗の未来

i.lab シニア・マネージャーの寺田です。先日、出張でシンガポールに行く機会がありました。シンガポールに行くのは2年ぶりでしたが、行くたびに新しい商品やサービスが出てきており、街中を散策していて楽しいですね。今回は日本でも買い物代行サービスを展開しているhonestbee社が2018年10月にシンガポールにオープンしたhabitat by honestbee(以下habitat)という「無人スーパー」を体験してきました。

Tomohiko Terada / 2019.5.15

小売業界は曲がり角に来ている


近年、日本国内ではコンビニ各社が24時間営業の見直しを考え出すなど、小売業界は明らかに転換点に差し掛かっています。今までは営業時間の長さや店舗数が顧客の便利さとほぼイコールだったものが、店舗数の飽和、各社間の合併、そして最大の問題である人手不足によって、今までの「公式」が崩れてきています。
そんな中で24時間営業を取りやめる実証実験を行ったり、ローソンのようにセルフレジを実証実験・導入したりして、オペレーションのコストのうち、主に人件費を削減しようという動きが目立ちます。都内のスーパー(例えば東急ストア)でも、商品バーコードのスキャンは人が行うものの、支払いは別の台で機械によって行うというように、業務を見直して人ができることは何かを見極めているように思います。また、アメリカでもAmazonがAmazon Goという無人スーパーを始めたことは記憶に新しいです。

五感で楽しめる「無人スーパー」habitat


将来の小売店舗はどのような形態になるのでしょうか。それを考える上でAmazon Goなどの「無人スーパー」は欠かせません。テクノロジーによってレジ打ちの人を削減するともに、タグによって万引き防止も可能です。今回、シンガポールにもhabitatという「無人スーパー」があると聞き、フィールド調査を実施しました。
結論から言うと、habitatは「無人スーパー」であるものの、私が「無人スーパー」と聞いてイメージするような店舗ではありませんでした。正確に言うと、テクノロジーを用いてレジ打ちや袋詰めの人員は減らした無人スーパーとフードコート・カフェの複合施設といった方が正しいでしょうか。
以下、実際に利用する順序でhabitatを紹介していきます。

0.入り口


入り口ではhohestbeeのアプリの提示が必要です。事前にこのアプリにカード情報を登録しておくと、後々の買い物が全てアプリでできるようになります。余談ですが、ただ、私は結局アプリが上手くインストールできなかったのですが、入り口の係員が建物の中に入れてくれました。他にもそんな人がちらほらいましたので、アプリの確認はそこまで厳しくないのでしょうか。
建物の中に入ると森の中にいるような緑あふれる廊下になっており、突き当たりに総合案内があります。ここでは色々とhabitatの「使い方」について聞くことができます。

1.店内


店内は天井が高く、自然光を十分に取り入れられることができ、明るい環境になっています。
また、この高い天井を利用して上部にモノレールがあり、買い物バッグがモノレールで運ばれていました。


2.買い物をする


買い物の方法は全部で3通りあります。

(1) 陳列棚に並んでいる商品をカートにキープし、最後にレジを通す。従来のスーパーやコンビニでの買い物と同じです。ただ、後述しますが、会計は無人で行われます。

(2) 陳列棚に並んでいる商品をアプリでバーコードをスキャンして支払う(写真)。これをすればキャッシュレスで買い物完了!なお、店内には10点以下の商品であればスキャンで購入して自分で持って帰ってもらい、11点以上だったら自動レジを使ってという案内がありました。なお、10点、11点というのは目安なようで、10点以下でも自動レジを通せます。

(3) アプリで購入する。アプリ内では、habitatの陳列棚で売っているものやフードコートの食事を注文・購入することができます。フードコートの食事は、アプリ内でオーダーし、できたら取りに行きます。その際にアプリのQRコードをかざして自分が購入した品であることを認証します。また、品物はアプリで買っておき、habitatを出るときに受け取ることもできます。その場合、買い物中に会計前の商品や会計済みの商品を自分でキープしておく必要がありません。


3.フードコート


Habitatの真ん中と奥側にフードコートがあります。奥側は普通のフードコートのようですが、中央にあるカウンターはオープンキッチンのようになっており、調理プロセスや盛り付けを見ることができます。
フードコートには、例えばステーキ、フィッシュ&チップス、パンケーキなど様々な食べ物があります。見た目が豪華だったり、調理中の香りに刺激されたり、お肉を焼く音が美味しそうだったりと、五感に訴えかけてきます。私もついついフィッシュ&チップスを頼んでしまいました。

4.レジ


レジは本当に簡単です。アプリのQRコードをかざして、写真のゲートにカートごと入れるだけです。その後、裏のピックアップ場所に移動するだけです。パッキングの状態はアプリで表示されます。








5.ピックアップ


ピックアップは自動です。写真のようにたくさんの荷物入れがある棚が自動で移動します。ゲートの横にQRコードをスキャンする機械があるので、そこでアプリのQRコードをスキャンすると自分の荷物がやってきてゲートが開き、荷物をピックアップできます。







以上が実際の買い物手順です。

今回habitatを訪れて感じたのは、honestbeeは小売店舗の新しい形態を探しているなと言うことです。QRコード決済や無人レジなどの新しいテクノロジーを導入してhabitatという店舗を作る一方で、これらのテクノロジーをどのように活用すれば顧客に価値を提供しつつ売上を上げられるかというのを、実証実験をしているように感じました。インターネット上では実際にその場の「空気」まではなかなか把握できないと思いますが、買い物途中にいい匂いをかいだり音が聞こえたりすると、ついつい休憩という名目で食事をオーダーしたくなります。そういった仕掛けを体験することができました。

テクノロジーという「手段」を何のために使うのか?


近年、日本で小売業界のニュースが流れるとき、人不足やコスト削減の話が出てくることが多いです。そして無人レジやRFIDタグなどは、業務や管理の効率化を進める上で重要なテクノロジーでしょう。しかし、無人レジが導入されてコストが削減されたところで、そこで買い物する人にはどのような魅力やメリットがあるのでしょうか。どうもテクノロジーの話題が先行しがちですが、それと同じくらい消費者にとっての価値、魅力やメリットにスポットライトが当たると良いと思います。

以上、今回のシンガポールでのフィールド調査を踏まえての考えをまとめます。

[今回訪れた店舗詳細]
habitat by honestbee
34 Boon Leat Terrace, #01-01, Singapore, 119866
(私はタクシーで行きましたが、Redhill MRTから無料シャトルバスも出ています。)
10:00〜22:00(日曜〜木曜)、10:00〜24:00(金曜、土曜)
https://habitat.honestbee.sg/
Author
寺田知彦

Tomohiko Terada
i.lab Director

東京大学大学院新領域創成科学研究科修士。ESADE Business School (Spain) MBA。キヤノン株式会社にて特許エンジエアの後、外資系戦略ファームにて、自動車業界をはじめ全社戦略立案等のプロジェクトに携る。i.labでは自動車、産業機器、ヘルスケア等の業界のアイデア創出・新規事業開発プロジェクトに携わる。

Related Posts
Thoughts

フィンランドにおけるイノベーション×デザイン
第2回:アアルト大学における起業家マインド育成

Tomohiko Terada
2017.11.09

前回はヘルシンキの街について紹介しましたが、第2回目の今回は、アアルト大学における起業家マインド育成への取り組みについてご紹介します。

Thoughts

フィンランドにおけるイノベーション×デザイン
第1回:ヘルシンキの街

Tomohiko Terada
2017.6.30

i.lab シニアビジネスデザイナーの寺田です。3月末に研修の一環でフィンランドにおけるイノベーションとデザインを調査してきました。現地で見聞きしたことについて、これから5回に分けて紹介したいと思います。まず第1回目は、ヘルシンキの街について紹介します。