なぜイノベーションには、まずモチベーションが必要なのか
3つの要素の中でも、モチベーションは最も重要視させるべきものです。
ここで、イノベーションのためのモチベーションとは、例えば、自分が人生をかけて実現し社会に提案するアイデアを見つけること、自分の専門性を生かしたいと思える社会課題や事業領域が見つかること、自分がイノベーション創出を追求するにあたって腹落ちする理由が見つかることなどを意味しています。
イノベーションを社会に生み出していくプロセスでは、ただ面白いアイデアを出せば役目が終わるわけではなく、その実現に向けては様々な方とのコミュニケーションが発生し、協力を募ったり、もう辞めたいと思うほどに強い困難に出くわしたりもします。そうした際に、人々が共感し一緒に頑張りたいと思えるほどに理想があり、困難があってもそれでも前進したいと思える、また絶対に前進しなければと思える、自分自身を鼓舞するモチベーションは必須なものとなります。
アイデアの新規性が高い、つまり、これまでの市場では全く見たことのない製品・サービス・ビジネスであればあるほど、その実現のためのプロセスは過酷です。その素晴らしいアイデアを届けたい対象であるユーザーですら、当初はその価値に気づいてくれずにそっぽを向かれることが多くあります。
そうした環境の中で、イノベーティブな製品・サービス・ビジネスを生み出すことを期待されているリーダーは、孤独な状況にもなります。自分自身がどれだけそのアイデアに情熱を持てるか、信じられるか、これを実現したいと思えるのか、自分自身への厳しい問いかけが毎日起こります。その問いかけに対して、自分なりの強い答えを持ち続けられるかどうかは、イノベーションを追い求めるプロジェクトにおいても、その成否を分ける一番の要素とも言えます。
イノベーション業務に求められる3つのマインドセット変化
次に、マインドセットの話です。マインドセットとは、日本語でいうと「習慣的に身についた考え方や物の見方」といったところでしょうか。ここで必要となる「マインドセット」とは、今まで持っていたマインドセットからの変化が必要であるという意味と捉えていいでしょう。私はイノベーション系の業務に参加される方に、以下のようなマインドセットを期待しています。
1.楽しく前向きにやる
- 創造的な思考と行動は本質的に楽しい。
- これまでの研究や仕事のやり方に捕われない。
- 先が見えないモヤモヤ感も楽しもう。
2.真剣に本気でやる
- 一人の大人として基本的なマナーは何か自分で考え行動する。
- 実践的な能力を身につけるためにも一瞬一瞬を本気でやる。
- 揉める時は破壊的ではなく建設的に揉めるようにする。
3.他者を理解し尊重する
- 驕りではなく、多様な年代と専門性、才能が集まるコミュニティの一員になる自負心を持つ。
- 自分自身やこれまでのコミュニティとの違いを楽しむためにも、他者を理解する。
- 自分を理解し尊重して欲しいなら、まずは自分が他者にそうしよう。
その内容について言葉にするのは容易ではないですが、私自身イノベーションに関わる仕事をするようになり、マインドセットの変化が明確にありました。
一番は、自分とは思考の癖やプロセスが質的に異なる人と仕事をすることが楽しみになりました。例えば、私のもう一つの職場であるi.schoolにて、私よりも明らかに習熟度が低いにもかかわらず、異なる専門分野の学生から、生活者インタビューの時にキレのよい洞察を見つける様を見せつけられると、新たなライバルなのか仲間なのかを見つけたようで、高揚した気分になります。これからも、今の環境について自分自身が10年後に振り返ってみると、あの時は画一的だったなと思うように、発展的な環境作りが必要であるように感じています。
次回は、イノベーションを起こせる人材になるために身につけるべき3つの要素の最後、スキルセットについて書きたいと思います。