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“Path to Innovation”は、イノベーション・コンサルティング会社i.labが運営するWEBジャーナルです。

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Society

マクロとミクロのハイブリッド視点でみるアフター/ウィズコロナの“未来社会”(1/6回)

i.labでは、 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によって私たちの日常が中長期的にどのように性質変化するのか、社内研究プロジェクトとして未来社会の考察を行いました。 これから、全6回シリーズで、研究プロジェクトの思考フレームワークや未来社会シナリオの紹介をしていきたいと思います。 初回である今回は、この研究プロジェクトの思考フレームワークや方法論についてご紹介します。

Yukinobu Yokota / 2020.10.09

未来を考察する際の「切り口」の重要性


まず最初に検討したのは、どのような「切り口」から未来社会を考察するのかということでした。
「COVID-19によって社会はどう変化するのか?」正直言うと、こういったテーマの調査や研究は既に世界中に溢れています。

そのため、結果として考察を深めたいのは一般的となったテーマ「未来の社会」だとしても、その対象物をどのような「切り口」から調査・考察を行うのかにこだわりました。

ここで言う、「切り口」を適切に設定することで、世界中でまだ考察が十分に行われていない領域を議論できる可能性があること、また私たちの生活変化のより重要な箇所への考察を深める効果が期待できます。

既に世の中にあるレポート等をみているうちに、頻出するキーワードがあることに気付きました。それは、「働き方の変化」「産業への影響」などです。

それらの頻出キーワードを敢えて避けることで、結果として今回は、「休み」というテーマを思考の入口として、生活者のよりパーソナルな行動・価値観の変化を考察、さらにその先にある家族や地域、社会全体までを視野にとっていくことにしました。※図1:研究プロジェクトの「切り口」の考え方

マクロとミクロのハイブリッド視点で未来を考察する


i.labは、創造的な課題に対して、成果物を生み出すための思考方法やタスク、プロセスの設計力には自信があります。

今回の研究プロジェクトでは、「シナリオプランニング」と呼ばれる、マクロな視点で不確実性を伴う状況の未来を考える方法論と、ミクロな視点で不明瞭な状況を出来るだけ具体的にイメージアップする「エクストリームユーザーインタビュー」と呼ばれる方法論を用いました。
通常は一緒に使うことは少ない方法論ですが、今回はあえて組み合わせて未来を考えるプロセスを設計しました。

シナリオプランニングは、未来社会を特徴付ける要因になるドライビングフォース(DF)を複数選択して、その前提でマクロな社会像を考えていきます。
思考プロセスとしてはある程度論理的であり、理にかなったものですが、最終的に作成する未来社会の具体的なシナリオづくりまで至ると、創造性が強く求められる「小説を書く」ような作業となっており、担当者にはかなり高い創造的能力と人生経験が求められます。

シナリオプランニングの方法論では苦労することになる、具体的な未来社会のシナリオづくりを、より容易かつリアリティーのあるものとすべく、今回は「エクストリームユーザーインタビュー」の方法論をハイブリッドで用いることとしました。

一般的には、エクストリームユーザーインタビューの方法論は、未来を考察する際に用いるものではありません。

 

通常は、「エクストリームユーザー」と呼ばれる、何らかの特徴軸でみた際に極端な性質や価値観を持つかのように見える生活者へのインタビューを通じて、特定のテーマに対して無意識的に持っていた固定観念を崩したり、新製品・サービスが求められている潜在的な機会を発見するための調査手法となります。

しかしながら、今回は、「エクストリームユーザー」とも言えるほどに極端な価値観や生活様式を持つ生活者を、「(ある部分においては)未来の普通の生活を先行的に体現している人」と位置付けてインタビュー調査を行い、その発言内容や生活様式を未来社会への考察材料としました。言い換えると、小説を書く際の、登場人物のモデルとなる人材への取材のような意味合いで、インタビューを実施しました。※図2:マクロとミクロの視点のハイブリッドで未来社会のシナリオをつくる

シナリオプランニングの検討プロセス


今回の研究プロジェクトでは、当然、長期の視点を持ちながら、企業における新規事業開発や経営戦略策定に直接的に重要となりそうな中期的未来として、「2025年頃」というターゲットを置いて、考察を深めることとしました。

シナリオプランニングは、確実性の高い因子と不確実性の高い因子を評価し、それぞれの影響を評価することで、未来の不確実性を考慮に入れた複数のシナリオを創造的に作成する方法です。※図3:シナリオプランニングを用いた未来の考察方法の概念図

2025年頃の「休み」に影響を与えるマクロな原動力としての因子(Driving Force:以下「DF」と表記)を収集しました。

DFの収集に際しては、未来予測系の書籍やレポート、ニュース配信記事などの公開情報を用いました。i.labでは、普段より独自のデータベースを作っており、今回は「社会変化のトレンド」で200事例程度、「技術変化のトレンド」で50事例程度、「変化の兆し情報」で120事例程度を評価・選抜にかけました。

研究プロジェクトに参画したi.labスタッフ7名で、前述の「社会変化」と「技術変化」、「兆し情報」の全てを読み込み、「2025年頃の『休み』」に影響を与える事象をそれぞれ評価・選抜しました。

その際には、下記の二種類の因子のどちらかとして選抜を行いました。
2025年頃の「休み」に対して、影響度が高く、確実性も高いDFを、「メガトレンドDF」。
一方で、影響度は同じく高い、でも不確実性が高いDFを、「不確実DF」として選抜しました。

念のためここで意味を確認しておいていただきたいのは、不確実DFは、発生確率が低いという意味ではなく、どっちに転ぶかわからないということです。

メガトレンドDFと不確実DFに関して、i.labスタッフ7名での独立した評価・選抜の後、その中でも「エンジニアリング」と「ビジネス」、「イノベーション」のそれぞれの分野で特に高い専門性を持つ3名でさらに議論を重ねました。

結果として、メガトレンドDFを6つ、不確実DFを2つ、最終的に選抜しました。※図4:メガトレンドDF6つ

不確実DFを検討する際には、マクロな事象ではあるものの、i.labらしく「人間中心」で考えた際に、どのような因子が重要であるのか、議論を重ねました。

一見すると、シナリオプランニングらしく、マクロな変化の単純な場合分けをしているようにも見えますが、今回はその際の人の内面の変化もまた大きいものとなるようにこだわりました。

例えば、下記の図5の不確実DF2などは、他に「働く場所は在宅優先⇆オフィス優先」という候補軸もあったのですが、結果として、人と話す約束をする時の第一選択肢がどちらなのかという点に着目しました。

人と会うという行為は他者との相互作用であるので、結果として、多数派の考えに付き合わざるを得ない環境になります。

生活者の意識として、どちらの方法に合わせようという力が生じるのかに注目しました。

たとえば、左側(「直接対面」が多数派)に行く場合は、仕事時間の会議の占める時間を思い出してもらえればわかりますが、在宅ワークが許容されていても、会議のために出勤するようなことが増えるでしょう。
一方で、右側(「オンライン」が多数派)に行く場合は、事務職系の方は、ほとんどの業務がオンラインで済むので、出勤する必要性がほとんどなくなるでしょう。

つまり、在宅かオフィス勤務かというのは、結果事象であって、それを左右する因子としては「人と話す際の方法選択の多数派」という軸表現に落ち着きました。また、こうした軸表現とすることで、働き方だけではなく、友人・知人、遠隔にいる家族とのコミュニケーションの取り方の変化までも思考と議論の範囲に含めることができました。※図5:不確実DF2つ

通常のシナリオプランニングの方法では、4つの象限に対して抽象度の高いタイトルをつけ、その中身のサマリー、そして各シナリオへと具体度を高めていきます。

しかしながら、今回の研究プロジェクトでは、マクロなシナリオプランニング側からのアプローチは、シナリオのタイトルとサマリーの検討までで一旦休止しました。

※図6:4つの象限のタイトル例

エクストリームユーザーインタビューの検討プロセス


次に、視点をミクロ側にふって、これまでの方法論とは別のアプローチをとります。

ここで少しエクストリームユーザーインタビューについて紹介します。
下記の図7の軸や分布図は科学的に意味のあるものではなく、あくまでも概念図として考えください。
ある特定のテーマで人を分布するとした際に、両端に入りそうな人を選びます。
例えば「通勤」というテーマだと、「2年間リモートワークの人」、通勤を「痛勤」ではなく「積極的に遊び倒す人」のような形になります。※図7:エクストリームユーザーの考え方

今回は、先ほどの4つのシナリオの世界観に対して、先駆的な生活様式を持っているという意味において、エクストリームユーザーを選抜しインタビューを10名に実施しました。

必ずしも4つのシナリオのどれかに1人ずつカチッと当てはまるわけではなく、マクロな視点から作っている各象限のサマリーに対して、よりリアリティーを感じる思考作業のために示唆の多そうな人を設定していることには留意してください。

インタビューは1.5時間程度とり、インタビュー対象者のこれまでの人生の変遷や価値観、自分ルール、習慣など、対象者への理解を深めるために多岐にわたるお話を伺います。対象者への理解、そして共感の先に、「休み」という大テーマの下にある、対象者に注目した理由となる極端な性質・行動を深める質問をしていきます。そのインタビューの結果から、「未来の普通」を考察するヒントを抽出していきます。※図8:今回インタビューを行った10名

4つの象限の具体的シナリオの作成に向けて


個人が抗えない社会の大きな変化を起点に未来のバリエーションを考える「シナリオプランニング」、一方で、個人の極めて個性的な部分を起点に未来の普通を考察する「エクストリームユーザーインタビュー」。

今回の研究プロジェクトでは、それら二つの方法論をハイブリッドで活用することで、その結節点には、大きな変化の中でのリアリティーのある未来シナリオを描くことができました。

次回以降の記事では、4つの各象限について、タイトルとサマリー、具体化されたシナリオについて順次ご紹介していく予定です。
どうぞ楽しみにお待ちください。
Author
横田 幸信

Yukinobu Yokota
i.lab Managing Director

i.schoolディレクター。早稲田大学ビジネススクール(WBS)非常勤講師。九州大学理学部物理学科卒業、九州大学大学院理学府凝縮系科学専攻修士課程修了、東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程中途退学。修士課程修了後は、野村総合研究所にて経営コンサルティング業務に携わる。その後、イノベーション教育の先駆者である東大発イノベーション教育プログラムi.school(旧名:東京大学i.school)では、2013年度よりディレクターとして活動全体のマネジメントを行っている。イノベーション創出のためのプロセス設計とマネジメント方法を専門として、コンサルティング活動と実践的研究・教育活動を行っている。近著に「INNOVATION PATH」(日経BP社)がある。

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Yukinobu Yokota
2014.7.27

「イノベーション」ここ数年で急激に耳にする機会が増えてきました。行政が主導する取り組みでは、経済政策の文脈の中でイノベーションの創出がコンセプトになっているものが多くあり、新聞などでもイノベーションという文字が多くみられます。書店も最近、専門書籍に加え、イノベーション創出のノウハウのような一般書籍が平積みにされているのをよく見かけますね。また、オンライン上で大学等の教育機関の授業を受けることが出来るMOOCs(Massive Open Online Coursesの略)と総称されるような教育サービスでも、イノベーションをテーマとした授業が多くみられます。こういった授業に対する受講生の注目度も、非常に高いものとなっているようです。では、なぜ、今、イノベーションがこれほど重要だと考えられているのでしょう。今回のエントリーでは、イノベーション旋風の中でも特にホットなトピックの紹介と、イノベーション旋風とも言える社会状況の背景にある本質的な理由について、i.labの考えをご紹介していきたいと思います。