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“Path to Innovation”は、イノベーション・コンサルティング会社i.labが運営するWEBジャーナルです。

イノベーションに関連した、アイデア創出手法やマネジメント方法、さらに、おすすめの論文や書籍について紹介します。また、注目すべき先端技術や社会事象などについても、イノベーションが発生し得る「機会」としての視点から解説していきます。

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イノベーションの、今

「イノベーション」ここ数年で急激に耳にする機会が増えてきました。行政が主導する取り組みでは、経済政策の文脈の中でイノベーションの創出がコンセプトになっているものが多くあり、新聞などでもイノベーションという文字が多くみられます。書店も最近、専門書籍に加え、イノベーション創出のノウハウのような一般書籍が平積みにされているのをよく見かけますね。また、オンライン上で大学等の教育機関の授業を受けることが出来るMOOCs(Massive Open Online Coursesの略)と総称されるような教育サービスでも、イノベーションをテーマとした授業が多くみられます。こういった授業に対する受講生の注目度も、非常に高いものとなっているようです。では、なぜ、今、イノベーションがこれほど重要だと考えられているのでしょう。今回のエントリーでは、イノベーション旋風の中でも特にホットなトピックの紹介と、イノベーション旋風とも言える社会状況の背景にある本質的な理由について、i.labの考えをご紹介していきたいと思います。

Yukinobu Yokota / 2014.7.27

Photo by Gilles Lambert

産官学を取り巻くイノベーション旋風


イノベーションという言葉をよく耳にすると言いましたが、それもそのはず、いま、産官学でイノベーション旋風が起きているのです。

産業界では、この10年間iPhoneやiPadなどで市場を席巻したアップルが、イノベーション企業として羨望を集めています。アップルのビジネスの特徴としてよく挙げられるのが、優れた意匠の製品群とサービスプラットフォームを統合的に提供している点です。アップルは、製品単体でのビジネスではなく、製品やサービスのユーザー起点での利用体験を統合的にデザインしたことが功を奏したのではないのでしょうか。そうした成功もあり、近年では日本企業の中でも、「デザイン思考」という、フィールド観察を通じたユーザーへの共感を出発点におくアイデア創出の方法論を、事業創出の文脈の中で活用しようという動きが、特に、大企業に多くみられます。

また、企業内に眠る特許といった、既存の知財を活用したアイデア創出の方法論に関する興味関心も高まっているように感じます。例えば、東京大学政策ビジョン政策研究センターが主催する知的資産経営研究講座において「デザイン・ドリブン・イノベーション」をキーワードとした講座が開講されたりしています。i.labスタッフが、産総研や銀行、メーカーなどで講演を行った際、企業内の各種部門の中でも、特に知財部門の方がその方法論に興味を持ち発展的な議論が行われることが多くあります。先述の通り、イノベーション創出の方法論としては、近年は人間中心のデザイン思考が先端的な取り組みとして取り上げられることが多くありました。しかし、このような傾向から、今後は知財のマネジメント研究や実践方法との融合が図られるように予想しています。i.labでも、既存知財を活用したアイデア創出方法の開発に注力しています。

さらに、文部科学省では、イノベーション創出の活性化のためのグローバルアントレプレナー育成促進事業(EDGEプログラム)が始まろうとしています。新事業創出を促進する人材育成、関係者・関係機関による持続的なイノベーション・エコシステムの形成をはかるプログラムです。7月末時点で実施校は公表されておりませんが、公募要項によると、日本で10校程度の教育・研究機関が支援を受け、グローバルに活躍出来るイノベーション人材を生み出す教育活動を加速させていくとあります。また経済産業省では、企業内で画期的な製品やサービス、事業を生み出す人材、「フロンティア人材」の育成や活用に関する調査・提言も積極的に行われています。

教育機関では、2009年、東京大学にi.school(イノベーション・スクール)が設立されました。他にも、慶応大学SDM(システムデザインマネジメント研究科)九州大学QREC(ロバートファンアントレプレナーシップセンター)といった、経営学ではないアプローチで、イノベーション創出方法を学ぶ教育機関が続々と設立されています。また、それらの大学が発起大学となって、「イノベーション教育学会」が2012年度に設立されるなど、イノベーション人材が育成される土壌が、教育機関で着々と進んでいるのです。

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このように、今、産官学でイノベーション創出への機運が高まっているのがお分かりいただけたかと思います。それでは、なぜ、今、そうまでしてイノベーションが必要とされているのでしょうか。

ロボットとの、共生や協同を前提とした働き方


最近ソフトバンクのロボット事業への参入が注目を集めました。また、近い未来、私たち人間の仕事の多くはロボットが担う事になる、という話はもう珍しくありません。遠い未来の話ではなく、既に起きていることでもあります。つまり、ロボットと共生する社会において、人間が生み出す価値を問う時代に私たちは生きています。

知性において、多くの面で既に人工知能は人間を凌駕しています。本100万冊分の知識を持ち、人間の言葉を聞いて受け答えできるIBMの人工知能「ワトソン」がアメリカの人気クイズ番組で人間に勝ったのは有名な話です。また、将棋でも人工知能がプロ棋士を破るニュースが大きく注目されました。

身体性においてはどうでしょう。ショベルカーのもつ力強さも、ロボットアームのもつ正確さも、既に私たちの生活を支えてくれるなくてはならない存在です。工場の仕事も、以前は人間がしていたものをロボットが担っているという状況です。

このように、少なくとも私たちの仕事のシーンでは、人間とロボットの距離がより近くなっている、もしくは置き去りにされはじめています。このような状況で、私たち人間の存在価値が揺さぶられていると言っても過言ではありません。ロボットではなく、私たちだからこそ出来ることは何なのでしょう。それは、より能動的であったり、美的であったりが求められる「クリエイティビティ」、より複雑な人間関係、共感に基づく行動や発言が求められる「コラボレーション」ではないでしょうか。

そして、その二つを掛け合わせてこそ生まれるものがイノベーションです。イノベーション創出を目指す営みこそが、結果として未来社会の中での人間の存在価値の自己認識を促してくれるのではないでしょうか。もちろん仕事に貴賤はありませんが、私たちi.labは、自分たちだからこそ出来る仕事をしていきたいと、日々イノベーション創出に挑んでいます。

暮らしの質の、動的平衡を実現するもの


既に先進国である日本では、少子高齢化が進む人口動態や内需中心の産業構造、地球環境配慮の必要性を考慮すると、以前経験したような環境を顧みない利己的で発展的な経済活動は長期的に見込めない、成熟社会となりました。だとすれば、今ある暮らしを質と量的にどう現状維持するのかが今後の課題となっていきます。

ここでいう現状維持とは、必ずしも「変わらない」という意味ではありません。みなさん、「動的平衡」という言葉をご存知でしょうか。何かが生成されることと消滅することが同じスピードで共に起こることで、平衡状態を維持している様子を表す科学用語です。私たちの日常生活で例えてみると、私たちの体は、日々、食物摂取と排泄を繰り返し、その結果として、身体を形成する細胞が動的に日々入れ替わりながらも、今ある姿を平衡状態として維持しています。このように、変わり続けることで現状を維持していくことが「動的平衡」であり、私たち人間や社会、経済、文化の本質となっていると言えるでしょう。

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社会全体での生成的な成長が見込めず、自然の摂理で消滅や問題が着々と起こりつづける現代。だからこそ、価値創出の生成の部分を外部環境や人任せにせず、個人や企業によるイノベーション創出の試みが生成の役割を果たし、暮らしの質の動的平衡を実現するのではないかと考えています。つまり、今の状況を守るためにも、イノベーションが必要なのです。

イノベーションが、不可欠で定常的に行われる時代へ


イノベーション旋風は確実にあるようです。しかし、イノベーション創出への挑戦は付加的な単なる流行ではありません。私たち人間の意味や生活の維持のためにも、必要不可欠で定常的に行うものであるとの認識が広まっていることの表れだといえるのではないでしょうか。

以上、「なぜ、今、イノベーションなのか」という問いに対するi.labの答えを紹介しましたが、いかがでしたか。 今後、イノベーションが不可欠になる中で、どうイノベーションを創出していくのかといった、イノベーション創出の様々な手法もこのブログで発信していきたいと思いますので、お楽しみに。
Author
横田 幸信

Yukinobu Yokota
i.lab Managing Director

i.schoolディレクター。早稲田大学ビジネススクール(WBS)非常勤講師。九州大学理学部物理学科卒業、九州大学大学院理学府凝縮系科学専攻修士課程修了、東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程中途退学。修士課程修了後は、野村総合研究所にて経営コンサルティング業務に携わる。その後、イノベーション教育の先駆者である東大発イノベーション教育プログラムi.school(旧名:東京大学i.school)では、2013年度よりディレクターとして活動全体のマネジメントを行っている。イノベーション創出のためのプロセス設計とマネジメント方法を専門として、コンサルティング活動と実践的研究・教育活動を行っている。近著に「INNOVATION PATH」(日経BP社)がある。

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